ここまで言語教育シリーズを読んでくださった方はおわかりだと思いますが、モンテッソーリ教育の言語教育では、年長さんになって「もうすぐ小学生だから!」という理由で文字を書かせたり練習させたりはしません。
多くの園では、年長さんになって初めて“文字のワーク”を使ったりして、文字を書くことをします。それまで文字にふれる機会が少なかった子や、色鉛筆などを使って「書く」経験の少ない子は、一苦労です。今思えば、子ども自身に、文字を書く準備ができていなかったんだなと感じます。
モンテッソーリ教育の言語教育では、よ~く考えられた環境の中で、それぞれの発達や興味に応じて楽しみながら活動しているうちに、いつの間にか文字を書くための力が身に付いている。だから、文字を書きたい!という時が来た時にはしっかり準備が整っているんです。それってとても良いですよね。
文字を「書く」ためには、どんな力が必要?
モンテッソーリ教育では、「書く」ということを【目で見た図を再生するだけの機械的な作業】だと定義しています。わかりやすく言えば、「あ」という文字を発音できなくても、目で見て真似して書くことはできるわけです。「○」を見て真似して書くのと同じなんですね。
そして、これを可能にするためには、2つの能力が必要だと言っています。
①字の形を正確に捉えることのできる“目”=感覚的な能力
②自分の意志によって、思い通りに動かすことのできる“手”=運動的な能力
「日常生活の練習」と「感覚教育」を基礎としている
モンテッソーリ教育の5分野の図を思い出していただけるとわかりやすいですが、言語教育は『日常生活の練習』と『感覚教育』を基礎、土台として行われます。つまり、文字を「書く」ために必要な能力は言語教育に入る前に獲得しているのです。
①字の形を正確に捉えることにできる目
日常生活の練習で言うと枠にぴったり合わせるシール貼りやのり貼り、感覚教具の中でも視覚の教具を使うことで、繊細な違いも見分けることのできる目を獲得しています。
②自分の意志によって思い通りに動かすことのできる手
注ぐ、縫うなどの日常生活の練習や、円柱さしのつまみを3本で持ったり、雑音筒を振る手首の動き経験することで、鉛筆を持ってしなやかに動く手を獲得しています。
本人たちはそれが文字を書くための準備だとは知らずに準備ができているんだから、よく考えられているな~と感心してしまいます。(※これを「鉤の手の原理」と言います。)言語教育の分野に入ってからも、この密かな準備は続いているんです。
言語教育の系統図
再び、言語教育の系統図を見てみましょう。【言語教育⑤‐1】(➡もう一度読んでみる!)でもお話したように、たくさんの活動が用意されている中で、実際に鉛筆を持って紙に文字を書くのは“書きことばー書き方ー書き方の実際”という部分にある市松模様の紙という活動です。
ここに至るまでに用意されている、“書きことばー書き方”の活動を簡単にご紹介しますね。
書きことばー書き方のおしごと「書くものを持たずして書く」
□音節遊び
単語がいくつの音節でできているかを、「みかん」→「●●●」、「しょうぼうしゃ」→「●●●●」のように、手を叩いたり楽器を鳴らしたりして、体験を通して知ります。
□メタルインセッツ
図形をデザインしていると見せかけて、実は鉛筆の持ち方や筆圧、文字を書くための手首の動かし方を獲得しています。メタルインセッツの活動を楽しんでいる子どもは、いつの間にか字を書くための運動的能力を強化していることになります。
□砂文字板
ようやく“ひらがな”が登場!!ここでは、触覚を使って文字の形を捉え、筆順を知ることになります。大人が発音した音と目の前にある文字が同じとわかることで、一文字一文字を発音することもできるようになっていきます。
□文字ならべ(五十音の箱)
50音がパズルのようになっている教具です。この教具をつかい、「あ・い・う・え・お」という50音の並びを知ることとなります。1行ずつ取り出して、順番通りに並べていきます。
□単語並べ(移動五十音の箱)
文字が書かれたチップがたくさん入っている箱です。これを使い、身近なものや好きな○○の名前を書いていきます。
□文字さがし
音節の黒い点が書いてある絵カードに、文字チップを置いて名称を完成させる活動です。
※鉛筆で文字を思い通りに書くことができるようになるより先に、子ども達は自分の知っていることばを「かきたい」と思っています。モンテッソーリは、このこのチップを並べて構成することも「書くものを持たずして書く」と言っています。
日本語は「書く」と「読む」が並行している
文字を書くことと、読むことは、どちらが難しいと思いますか?(研修では実際に体験していただいています)
先ほどもお伝えしたように、「書く」は目で見た図を再生しているだけの機械的な作業。それに対して、「読む」は、文字を音にするだけでなく、その意味まで分かることを「読む」と言います。どちらかというと、「読む」ことの方が難しいのです。だから、系統図も書き方が読み方より先になっています。
では、書き方が全部終わらないと、「読む」をやたらダメかと言うと、そんなことはありません。特に、日本語は書くと読むが並行するという特徴があります。例えば、英語でネコを表わす「CAT」を書くのは簡単ですよね。でも、読むのは難しい。「シー、エー、ティー」と一文字一文字を読めたとして、その意味が難なのかはわかりません。それに対して日本語は「ねこ」と一文字一文字を読んだとしても「ねこ」と聞こえるから、その意味もわかりやすいのです。しかぁし、読むのは簡単だが、書くのはとても難しいですよね。
だから、日本語の場合は並行して行っていくという特徴があります。実際の子どもの姿を見ていても、「読む」の方が先にできるようになる子が多い気がします。それほど、「書く」ための手の動きって難しいんだなとも思います。
まとめ
モンテッソーリ教育の環境で活動していると、文字を書くための準備が、子ども自身も知らないうちにできているということが伝わったでしょうか。
このことを知らなかった保育士時代には、文字のワークをやることで文字が書けるようになると思っていました。今考えると、なんて可哀そうなことをしていたんだろうと思います。ワークは薄く書かれたひらがなをなぞるところから始まるので、系統図で言ったら“書き方の実際”から始めているということになります。鉛筆を使う経験が少ない子は、鉛筆を持つのもやっとこ。ことばに興味のなかった子は、文字もわからない状態だから、なんだかわからない記号を書けって言われて、はみ出したり曲がったりするとやり直しさせられて、、、そんなのつまらないですよね。モンテッソーリ教育を知っていたら、“文字を書くことは楽しいこと”と思わせてあげられたのに!と、思います。
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